めまい

実は、ジェームス・スチュアートが嫌いだ。だからヒッチコックが好きでも、絶対に彼のは見なかった。だが、うっかり昼間に、ちょっとテレビをつけたら、「めまい」をやっていて、ファーストシーン。巡査がビルから落ちて死ぬシーン・・・しょっぱなから暗いなあ・・・と、憂鬱な殺人事件と高所恐怖症男のぶるぶるした話だろうと思っていた・・・次のシーンで、ええ?目がさめてしまった!

なんともカッコいいビルの上階の事務所。何の事務所なんだろう?めがねのデザイナーみたいな女性が、斜めのボードの上で何か書いていて、主人公の高所恐怖症男は、腰にコルセットをつけて、だらしなくイスにすわっている。女性を頼りにしているらしく、何かぶつぶつ愚痴っている。一瞬前は暗がりで恐怖に凍っていたのに、同じ男が陽光のそそぐサンフランシスコのビルの一室でお気に入りの女性相手にだらだら喋っている、この展開!見ているほうは、アートっぽい部屋に魅了され、やがて洒落た、優雅で、悲惨なストーリーの流れにとりこまれていくという寸法か、なんと!これは!

そこからは、美術館でラテン系の悲劇の美女の悲しい肖像画、その子孫の女性、古いミストレスマンションだったことのあるホテル、古い本屋、噂、自殺、狂気の家系、サンフランシスコベイ、飛び込んだ美女、人妻、陰謀・・・百花繚乱のヒッチコックアメリカである。サスペンスもスリルもあるけれど、むしろ50年代の豊かで洗練されたアメリカ、文人テイストみたいなものを、悪夢にからめてきれいに見せる。幕間狂言のような男女のやりとり、そして主人公は、まぬけで、タレ目で、女にもてる、でも野暮なJS、そして彼は高いところで震える。

不幸にも仕事が入って、30分しか見れなかった。めまいはDVD化されていないみたいなので、帰りにビデオ屋さんで借りてきた「裏窓」でも見ようと思う。そのうち、これも最後まで見たいと思う、JSは、嫌だけど、でもヒュー・グラントのお祖父さんみたいだよね。