山田チカラでございます

と電話口で言うのが、なんかちょっと・・・という女主人。でも山田チカラさんが出した店の名は「山田チカラ」なのだ。「山田でございます」に落ち着いたみたいだけど、普通のお宅みたいですね。茶懐石みたいな地中海料理?ジャンル?よくわからないけど「美味しいお店」なのだ。

雪の精みたいな、透き通るように美しい山田夫人は兼ソムリエで、エッジの効いたセレクションのワインやシャンパンと、山田シェフの繊細な料理が流れるように出てくる。チーズのケースにまで「二人でさがした」感がみなぎっていて・・・茶懐石を意識しているというから、ちゃんと四畳半の炉まで切った茶室があって、にじり口のくぐり戸に床の間の一角まである。お利巧にしなくちゃいけない、かんじのお店。

初めに出てきたせいもあるけれど、1万円超のコースでスゴク美味しかったのは、鯛の胡麻和えだった。胡麻が尋常じゃない新鮮な味と香りで、さやから出したて?いりたての擂りたて?

フォアグラのスープが美味しすぎて、食通のN田さんは「スープの食器とスプーンのRが合っていないじゃないか」とこぼしていた。一滴も無駄にしたくない、気持ちはわかります。十八番のエスプーマで霧状に凍らせたフォアグラにコンソメをそそいだスープ、いっそ太めのストローにフォアグラのミストをつめて、熱いスープを吸い上げることにすれば、余すことなく口に入るなあ、と浅ましく思ってしまったり・・・。

他、たとえようもなくきのこの風味がするサマートリュフのビシソワーズあり、佐賀牛のステーキあり、もちろん極濃貝味のパエリア!デザートはブラマンジェとキャラメルアイス。ミラクルフルーツのおまけまでついて、レモンが甘くなる、あれね。その他もろもろ・・・「素材の味を引き出す」というけれど、まさにそれ。食材そのものを食べている実感がありつつ、仕事してるなあ、という感動もあり。素材と仕事が立体的に立ち上がってくるかんじ。

メイン食材も選んでいるけれど、例えば塩加減とか、胡椒の利かせ、風味付けに使う材料のセレクションの確かさと鮮度が、おもわず、ううーんとうなるほどの腕前で、本当に味のいいシェフなんだな、といまさらながら感心する。ふわっと美味しい、後味がいい、軽いけど印象的。和食のような、懐石のような地中海料理?でもマグロにはオリーブオイルがうまみを足しているし、地中海の材料を使って美味しいポイントを外していない。ああ美味しい、美味しかった!もうちょっと食べたい!と思い続けてデザートまで行ったら、また最初から繰り返したいかんじ・・・永遠に!ほんとに素材を味わう「舌」を試される・・・お客も勝負!というかんじもあり、で山田さん、サムライだなあ・・・。

食通の人や料理人が、料理の味を「面白い」っていうのはどうしてかなと思っていた。「美味しい」っていう評価は、今やあまりにも野蛮で蛋白質と脂肪と塩分・糖分が勝負みたいなニュアンスがあるのかも。結局大間のオオトロと松阪の霜降りかい、みたいなことは確かに美味だろうけど、面白くはない・・・だから「面白い」味が粋なのかも。そういう場合の料理って、味だけじゃなくて素材の履歴まで料理で辿られていたりして、確かにストーリーがある面白さもあるもんなあ。味にしてもひょっとする感知ぎりぎりの味付けで、でもそれこそ五感で楽しめるような仕事、香りとか風味、食感、しつらいをトータルに受け入れるというのが、東京の最先端なかんじ?脳で食べるのが、料理の真髄・・・とかいうことを考えたりもするけれど、素直に席に座って、出てくるものを美味しいなあ、とただ思うのは幸せだったよなあ。

お酒はシャンパンが2種類、モルドバ共和国のワイン、ムートン・ロートシルトのカシス、ミセニョーラという樽香のいい白ワイン、普通に美味しい赤ワイン、あとなんだっけ?いろいろ呑んで、かなり酔っ払ってしまった。珍しく終電をのがし、南麻布からすんごく話し好きのタクシーで帰宅、午前様でした。