細雪

触らなば落ちんってかんじの話。細雪 [DVD]

25年前の石坂浩二は、なかなかうまかったなあ。吉永小百合の「雪子」には賛否あるだろうとは思うけれど、あの美しいけれど芋っぽい(古風なというべきか)芯の強い鈍感さを武器にした女(つつましいというべきか)の変に凄みのある薄ら笑いは、なかなかだった。

何もいわず、ただじっと体を丸めているだけなのに、姉夫を静かに強力に誘惑する。何をするわけじゃないんだけど、もちろん!でも、男の気持ちはぐいぐいと、遠心力のように、まさにそのように彼女に向かってしまう。何度か妻よりも、雪子に体を寄せて歩く、不自然によろけて体をぶつけたりする。その接近、雪子も義兄の体がふと触れるに任せて拒まない。もちろん、決定的じゃない、わずかに帯に指で触れたり、羽織を脱がせたり、それだけなんだけど、そのわずかなしぐさに想いを、欲望を、こめているのがよくわかる、その3秒、あの30センチだけ空気の温度が違う、変な熱、うまいなあ、あんなインモラルな空気は今の若手には生み出せそうにない。密かにどうしようもなく惹かれあう男女の空気。

義兄として一線を越えられないというMっぽいルールがスリルなのかも。いずれは時間がたって雪子は嫁にいってしまう、それを戦争がはじまり、日本が変質する前夜にひっかけているなんて、市川昆!美しいよき日本が、破壊される前夜。そういうなんとなく胸苦しいような、甘酸っぱいような、もどかしい切ない時代。蜜月の日延べに、義兄は雪子にいい縁談がくることを願いながら、願えない。

最後に嫁ぐことが決まった日、楽園の落日に義兄はひとり涙ぐむ。あ、その顔がトニー・レオンにそっくりで、似ている!泣くとそっくり、なんか、25年前の石坂浩二のかんじなのかもなあ。しかし・・・関西弁はかなり無理だった。