ただひとり東京の22階
厳密にはひとりじゃなかった。例えば前後15分間を言うなら、ぜんぜんひとりじゃなかった。
でも、そのときウェスティンホテルの「恵比寿」の板厚2センチの鉄板前カウンター前にいた私は、部屋にひとりで、ようやく一週間ぶりに晴れた、眼下の輝く夜景を見下ろしていた。
恵比寿の空、一人でぽつんと浮かんでいるみたい。
ふいに「その声」がやってくる。それは私の思考にわりこんできて、その一瞬に考えたことに同意したり、反論したりして寄り添う、しばらくのあいだ。ときどき、そういう人がどこか遠くからやってくる。「テレパシー」なのか単なる人格障害の発作なのか、でも「彼(男なのだ)」がやってくると、もう私は孤独ではなくなるのだ。
でも今は、ここ数年はその「彼」もいないので、ほんとうにしーんとした恵比寿の上空で、ぼんやり「あわび」や「松阪牛」の乗った皿を観察しつつ、暗い空を見ている。
人に何か言ってしまったり、聞いてしまったりすることの難しさに苦しむ。
「あなたはキョウレツなおしゃべりだから」と人は言うけれど、そうなのかな。
どんどんくだらない方向に堕ちていく。
恵比寿が嫌いになりそうだ。