彼女

まさか接点があるとは知らなかった。生きた時代を考えても、青鞜とのかかわりをかんがみても、この出会いは無理のないものだったかもしれない。でも、何も野上の家の真裏に住んでいなくったっていいじゃないの。

野上はエッセイの中で野枝のことを思いおこすけれど、不思議なくらい当時のフェミニズムでは先端的な位置にいただろう彼女の思想には触れない。そんなものはよくて、この人の女としてのドラマを独特の老女のような温かいけれど、乾いたタッチで描いてみせる。つかの間の付き合いだったと認めながら、伊藤野枝がたどった短い道程を。彼女のように野性的で純朴なだけの女が、危い男を選んでしまった不運。

二人目の子供をおんぶして野上の家の玄関で号泣する伊藤野枝。これも駆け落ち同然だった辻潤(この人のことは小説「彼女」で酷評している。思うに野上は自堕落で爛れた男が嫌い?なのかも。)との間の2人の子供を捨てて、ほかに2人も女のいる大杉のところへ行こうとしてた夜のこと。

でも本当に母性的だったのね、その後大杉との間に5人も子供を産んでいて、合計7人。
神近は殺人未遂で退場、妻とは離婚で、野枝が残った。だからって虐殺されたら元も子もない。