孤独な男 シューベルト

シューベルトのリートに「孤独な男」というのがある。孤独というとすさんだ心情を切々と・・・と思うとそれが違う。一人で暖炉の傍らにいる気楽な人のつぶやき。「暖炉ナウ」みたいな軽快な歌なのが面白い。そのなかに暖炉のそばにそう少し居たいけれど、火が消えそうなので、火かき棒で燃えさしを掘り起こすというのがある。

一夏に一度か二度、森で一人で焚き火番をする。ただ火が燃えているが嬉しくて楽しくて、何時間でも眺めている。火が燃え続けていること、熾が冷めてしまわないことだけを一心に願って、空気を送ってみたり、新しい薪を加えたりして、炎の寿命を伸ばそうとする。もっともっと消えずに燃えていてほしい、こころの中はそれだけで一杯、それまでのプラクティカルな能力と知識があるだけそこに集中していく。ふと、時計を見ると3時間もそれだけをしていたことに気づき、普段は忘れているけれど、あの切なる願いというのは、火を絶やすまいとする努力というのは、美しい仕事だ。ひとり、夜の山の暗がりに座って、新しい青々しい薪に火が移り、燃え始めるその瞬間から、ついにその夜の炎が絶えてしまうまでの数時間。

シューベルトとは気があいそうだ。前からちょっとそう、思っていたけれど。