青空のようなあなた

時々思い出す、いつまでも忘れられない人がいる。どういう経緯か忘れたけれど、とある街の噴水の前で待ち合わせて、ふたりで暗いカフェで話した。時間にしたら2時間もなかったと思うんだけれど、その人のことが忘れられない。人の紹介で会ったので、初対面だったし、私は気の利いたことなどなにも言えなかったけれど、そして話の内容はつまらないこと。公園を散歩していたら、おばあさんに犬をけしかけられたとか・・・そんなこと。でも、その人はまるで青空のように突き抜けて明るいところからやってきたような人だった。あまりにもしなやかでやさしい心をもっていて、一緒にいればそれだけ私までましな人間に、透明に柔らかくなっていけそうな気がした。許されるかぎりずっと一緒にいたいけれど、それはあまりにも私には過ぎた望みだったみたいだ。「また会いましょう」と言ったと思うけれど、それ以来一度も会っていない。はがきを一度もらったかもしれない。
夏になると、長野と群馬の県境の山小屋に行った。数日後に山を降りるとき、山の空気がもう吸えないこと、都会のあの塵くさい生ぬるい世界に戻ることが悲しくて、下るに連れ涙が出た。ずっと山の上で暮らせたらいい。今でも標高2000メートル以上の高地に行くと、生き返ったような、何かを取り戻したような気持ちがする。ぴったりだ、ここが私のいるべき場所だって、思う。忘れられないその人は、まるで山の空気のように、私をつよく惹きつけた。恋とは違うけれど、憧れとも違う。救済、これが一番近いかもしれない。

彼女はどうしているんだろう?今頃どこかで心やさしいお母さんになっているんだろうか?