浮雲

あの森雅之は深刻ぶっておいて、いい加減ですごい。さすが有島の血なのかもしれない。ああいう風に裏暗くて、世間の渋味を味わいつくしたようでいて、不誠実に徹底していい加減に生きている力なき男は、今更いない気がする。挙句腐って蛆の塊になってなくなってしまう勢い。昭和の人は胆力がある、ただ腐るにしても。日本映画史上もっとも知的な二枚目というけれど。二ヒルを気取って目の前の人間の不幸など、自分の精神にはまるでなんの影響もないとでもいうように。裏切られても捨てられても結局着いていった女が雨ばかりの南の島で病気になって死んだ時、ついに男は傷ついたろうか?それさえできれば、女は満足だったのかもしれない。何を言っても、去ってみても、自分の力では一筋の傷さえ付けられないことに、彼女は絶望していたんじゃないのか。成瀬は何を言いたかったのか?高峰秀子が演じたから、なおのこと、その女の正気がすさまじい。破滅の道程を選び、男について行くすごさ。モロッコのディートリッヒのすごさも、正気でハイヒールをぬぎ、傭兵隊についていくベドウィンの女たちの荷物を、自分も担いで砂漠を歩き出すところだったんだけれど。