肩甲骨の下まで

肩甲骨まで伸びた髪をばっさり切ってしまった。気分を切り替えようと思ってやってみたら、効き目抜群。鏡に写った私は、ザンギリ頭の子どものようで、さっきまでしどけなく鎖骨にとぐろを巻いていた黒髪がない。安珍清姫じゃないけれど、女の髪は煩悩なのかもしれない。長いこと長くしたことなどなかったのだから、また短い髪にしたら前のキャラクターに戻ったみたい。長いこと無理やり色気年増を演じていた子役のようなものだったし。「長いときは臈長けたかんじでよかったのに、また元気な子に戻ってしまったね。」夫にあんまりがっかりされてびっくり。そんなに髪の長い女が好きだった?でも、また伸びるよ、生きていれば。

もう10年通っている近くのスーパーに、黒澤さんというレジ係の人がいる。越してきたころから、レジ係で、パートなのか社員なのかわからないけれど、応対が抜群。とても乾いた親切心できちんと対応してくれる。中高の地味な顔立ちの小柄な女性、修道者のようにストイックで、乾いた温かい笑顔でレジを打つ。彼女がレジだと嬉しい。また会えたなと思う。かなり嬉しい。こういう愛の形はなかなかいいと思う。

温度とエネルギーの低い愛をたくさん、そういうのが平和でお行儀がいい。

私はそうはいかない。安珍清姫のようになってしまう。執着と愛の区別がつかない。心には確実に修羅がいる。反省しても、ひどい目にあっても修羅は消えず、平和な時間を破壊する。