ほんとに釘


子どもの上腕に、折れた骨を修復するために入れていたピンを抜いた。抜釘というので、どんなものかと思ったら、先生が抜いていたのは、ほんとうに釘だった。

工具のようなもので、打ち込むらしい。今は画像解析やレントゲンで見ながら施術するということだが、その昔は見当でやっていた名人芸だったのではないだろうか。今だって、びっくりだ。なにせ、子どもの腕は細いじゃない。

抜釘3本、あっという間だったので、子どもは泣く暇もなかった。「やっとこ」みたいなもので鋼線の頭をつかみ、ひねって、えいえいえいっと3本。整形外科的には珍しくもないことなんだろうけど、初めてなので、あざやかな手さばきに目を見張る、お見事。場違いな賞賛ムードの診察室・・・先生は決まり悪そうだった。

麻酔もしなくてすんだし、うまくいってよかった。

いままで右手を「使うな」と言われていたのに、「使え」と注意されて憤慨ぎみの子ども。おはしやフォークはサウスポーが板についてしまったが、絵筆は右。ようやく右手が戻って、一日中、絵を描いている。お見舞いにもらった新しいクレヨンがちびていく。もともとずっと絵を描いている子だったが、幸福そうで、嬉しい。

散歩に出ると、でもまだ親の右にまわる。右手をつなぐのが不安らしい。階段も飛び降りないし、花壇のへりも歩かない。臆病に用心深くなってしまっている。いつかまたあの向こう見ずな面白い子に戻るだろうか?全治2ヶ月といわれたけど、本当はもう少しかかるな。

今日もケーキを焼く、子どもが両手で手伝ってくれる。菓子を焼きながら、卵や粉や砂糖の話をしたり、あちち・・とかやってたら、時間が潰れるでしょ。

18時ごろ、急に子どもが腕を痛がる。あまり泣くので、また包帯をして、添え木をあてて、もとのようにしてみる。すると「もう痛くない」という。骨だけじゃなく、心も折れているんだろうか。見えないからわからない・・・それは骨もだけど。大丈夫?