カポーティのケーキ

トルーマン・カポーティの短編に、少年とおばさんが出てくるのがある。
それに出てくるケーキを作ってみる。

①ケーキの作り手は、社会生活を危ぶまれるような、ファジーな知性の中年女
禁酒法時代なのでババという南部っぽい名の大男の密造酒作りから、ウイスキーを買う
③必ずパインの砂糖漬けが入っていなくてはならない
④その一切れをアメリカ合衆国大統領に送付する・・・?

おばさんは、普段は世間からも家族からも半人前扱いされている。でも、一年に1度だけクリスマスケーキのために、法をおかして、全財産をはたき、パイナップルとウィスキーを手に入れ、ケーキを焼くわけ。そして、必ず一切れホワイトハウスに送る。そしてアメリカだから、当然礼状がとどくんだわ、南部の一国民のクリスマスプレゼントにも。

ほほえましい小編だと、若いときに初めて読んだときは思った。でも、実はかなり恐ろしい話だとこのごろようやく気づく。二人のアウトサイダー(いつも馬鹿にされている中年女と親に放棄された少年)が拵えたケーキは、彼らの自覚的にも単なる善意、クリスマスの精神のあらわれとも思える。でも彼らの生きている、晴れやかに幸福というわけではない境遇は、あきらかにアメリカの暗部である。ただのケーキには違いないけど、書いてもいないけれど、これはきっと魔女のカースにちがいない。二人が無力で弱いアウトサイダーであることを強調すればするほど、余計南部のダークな力の強大さを、呪いの強さが匂ってくるような気がする。だって、材料のそろえ方が魔術っぽい。産卵前の雌カエルを捕まえてきて、満月の夜にヒイラギの葉と銅鍋で煮る的な、厳密さがあるんだもの。

それを大統領に送る。子どものように無邪気な愛国心を装って、何かが込められているのかもしれない。まさか大統領は食べたりしないだろうけど。

ケーキ焼きとしては、ちょっとわかる。いつも、まずまず思ったように仕上がって、誰かがおいしいねえ、と思ってくれれば、充分なんだけど、なんか思わぬ邪心が入っちゃうこともあるかもしれないから。日々、心を清くして、拵えよう。

丸く焼いて、パイナップルは表面に貼り付けて、ドレンチェリーで毒々しくかざると、雰囲気が出るみたい。アメリカンな呪菓子のできあがり。バーボンが効いていて、ちょっと大人の味。頼まれものなので、味見できないのが残念。