本当に危ない男

「いい本屋があるところに住む」ために上京してきたW氏は、地方の国立大学を卒業して、東京でコピーライターになった。コピーライターなのに、ぎょっとするほど絵が上手くて、デザイン会社だけに、イラストレーターも、デザイナーも山ほどいるのに、不思議なくらい。今すぐイラストで食える、といわれつつのコピーライター。会社の先輩だけど、仕事をしたことがないので、本業の方はよくわからないけれど、絶対にただものではない、って人だった。

その彼は、ひそかに激しく女にもてた。だって、会社に隠して(どういうわけかモラルが女子小学生なみの会社だったので)同棲していた彼女は、通っていた学校をやめて、彼を東京に追ってきちゃったんだとかいうし。社内でも「彼のためならここですぐ全裸になってもいい」というほど入れ込む女子がいたくらい。で、見かけはどうだったかというと、180センチの長身はともかく、淡白な童顔、もっさりしてやさしくないし、フラフラ飄々とした雰囲気で女にもてる?違うんじゃない?それでも、何もかも捨ててでも彼のために!ってストーカー化する人がいたりした・・・???

彼を激愛している女子にじっとり見られつつも、どういわけかウマがあってW氏には可愛がってもらっていた。何度も漫画を描いてもらったり、呑んだり、日帰り旅行にいったりして遊んでもらったけれど、この内海の入江のような穏やかな人のどこに、女をおぼれさすような危険な流砂が隠されているのか、まったくわからなかったね。きっと私は彼で破滅しなそうだから、誘ってもらえたのかも?まあほかの人もいたけどさ。

会社をやめて十数年・・・でもW氏には、どういうわけか町で偶然会う。まったく脈略のない場所でばったりと。ぜんぜん年をとらず、相変わらず飄々と、元気そうで何よりだ。今では立派なお父さんだそうで、よかったことです。

西島秀俊という俳優を見ると、思い出す。ああいうかんじの人だった。

本当に危ない男って、きっと匂いみたいなものがあるのかも。反応する場合としない場合があって、見かけじゃわかんない?だって会ってしまったら、理由もなく持ってるもの放り出して、彼の元へ!なんて衝動に突き動かされるなんて予想つかないもの。