ビジンちゃん

小学生のころ「ビジンちゃん」というアダ名だったのだという友達がいた。大人になってから知り合ったんだけど、絶世の美女というわけでもないのに、ビジンの雰囲気があった、学習って恐ろしい。夏公開する「ラブコン」に出ている藤澤恵麻という子に似ていた。かわいい?といえば、すっごくかわいい。

実家は金持ちで、甘やかされて育った(本人談)のだそうで、本気で取り巻きがいたし、そういう男を冷遇するくらいには充分傲慢で、遅刻、無断欠勤、借金、複数の男性関係などを、なんとかしてやろうという人も少なからずいたが、そういう煙たい男は、上手に避けてしまうし、危ない女を気取っていたので、誰にもどうしようもない・・・そして6月のある日、視界から消えた。

数年後の下北沢で、記憶の底からそっと聞こえるような低い声で呼び止められた「あら、●●さん」甘えたような口調と、色の薄い茶色の目は相変わらずだが、地面にべったり座ってくわえタバコで私を見上げている顔が凄くて、ちょっとゾッとしてしまった。ごはんに誘ってみたら、付き合ってあげてもいいという。あいかわらずだった。

その彼女が真剣に好きだった人がいた。運が悪いことに彼にはソウルメイトと言えるような女性がいた。何をしても彼らが振り向かなかったから、自堕落になって死にかけて、命がけで復讐したのかもしれない。
彼は彼女に優しかったけど、あてつけがましく破滅していく彼女に意見することもなく、受け流していたようだったのは、なぜだったんだろう?ああいう時の男って冷たいもんだ。自分のせいでだめになっていくものを、まるで気づかないかのように、親身にはならないものなんだ。

そういえば、彼女は彼の前でものを食べなかった、口をあけてものを食べているところを見られるなら、死んだほうがましだといって、食べかけのハンバーガーを地面に投げ捨てるくらい、思いつめていたけれど・・・美人というのは、大変なもんだと、思ったものだ。人を好きになるのは、いいことだと思うし、恋に落ちてしまったものはしょうがない。でも人の期待に応える恋愛をしなくちゃとか、自滅するときさえ、人に惜しまれる陰惨な落ち方をプロデュースしなくちゃとか・・・ほんとに大変だ。

美しい女に生まれなかったのは、実に残念だけど、人から「ビジンちゃん」などと軽々しく呼ばれようのない容姿でよかったのじゃないかと、鏡を見るたび、そう思う。うん、残念だけどね、ほんと。

藤澤恵麻ちゃん、かわいいぞ。