リミさん

20代のころ、一緒に働いていたリミさんという人がいた。渡来の仏像みたいな美しい顔をして、桔梗の精みたいに青い服ばかりを着ている人だ。

「私はあなたの先生、くらいの年頃じゃない?」とゆったりした口調で、時々辛らつなことを織り交ぜながら話す、大人の女性。かっこいい。ちょっと郊外の古い木造の家に住んでいる。台所には木の流し、湯沸しもない。作りつけの棚に並んだ和食器、土間がある、2階は3畳しかない、そんな家。上級クロワッサンなかんじ。

ある日、遊びにいった。純粋な仕事仲間の家に呼ばれたのは初めて、まさか私1人だけとは思わなかった。でも、1人だけ。実はパートナーという男性がいて、けっこう年上で、途中から参加。ダイコンと鳥のひきにくを団子にしたおいしい鍋、豆腐の味噌漬け、野菜のおしたし、お酒がたくさん。これも上級クロワッサン。多分元は茶室だった炉を切ってある四畳半で、たくさんのお酒をのみながら、三人で四方山話をしている、夜。

「お勤めしたことないのよ、学校を出て、ずっと1人で仕事してきたの。編集者したり、校正したり、料理研究科のスタッフをしたりね。」とかって、およそ華奢な手で茶碗酒をあおりながら、まるで風来坊みたいなことをいっている。でもそんなの・・・だって、驚くほどアカデミックなところに人脈をもっていたり、思わぬ面白い本を編集してたりして、只者じゃないんだもの。

夜が更けて・・・
「彼があなたと3人で川の字で眠りたいっていうんだけど・・・?泊まっていけば?」そんな提案って、まず不思議で、20歳そこそこの小娘には、ちょっと理解できないかんじだった。

なんだかんだ言い逃れて、終電で帰った。

あの時、川の字で眠っていたら、何か違う人生が開けたかも?

仕事の縁がなくなってから、もう会っていないけれど、お元気でしょうか?