夏の表象

夕方、マンションの廊下の吹きつけ壁に蛾がとまっていた。夏が始まるなという頃になると、ぼんやりと褐色にともる廊下の明かりのそばに蛾がとまる。梅雨入りはしたみたい、ちょっと前までは芯のほうがひんやりした風も吹いたのに、今日あたりは灼熱無風の昼下がり・・・

陽炎立ち ゲーリー・クーパーよろめき出そうな古拳銃・・・字余り

そのせいか、夕方7時ごろに買い物に出る人も少なくない。今日はあまりの暑さに、ガリガリ君をもとめてコンビニに出かけた。

そうしたら左手で描いたエンピツ画のように心細いラインの幼児が、自分よりも大きいかごに化粧用のコットンをひとついれて、通路をよろめき歩いている。出口付近には、なかなかハンサムで大柄な男がピンクのリュックをぶらぶらさせて、舌打ちしながらイライラしている。あの小さな嬢やの買い物を待っている風。嬢やは、よろめきながらコットンを運び、アイスのヒラバへ。背伸びをしてケースからアイスを取り出し、くたびれ果ててフタを閉めずにレジに向かった。誰が払うんだろうか?男は、あからさまに不機嫌さをましていき、ピンクのリュックをドアに叩きつける。あの小さな嬢ちゃんにしたら、高さだけでも倍はある、体重なら8倍くらいありそうな、不機嫌な大人の男は恐ろしかろうな。アイスとコットンを買い終えて、よろよろおどおどしながら、恐ろしい男に向かって歩いていく。

すると、横っちょから華やかな若い女が躍り出てきて、お嬢ちゃんを呼び止めて注意「アイスのケースはフタをシメなくちゃだめでしょう?どうして閉めなかったの?」ってあんたは母親か?

心の狭い短気なイライラ男を待たせて、巨大なかごにあんたのコットン入れて運ぶ娘の姿に涙のひとつも流さんでどうする。泣き言ひとついわず、モクモクと必死で任務を遂行していた嬢ちゃんは、それでもその威勢のいい美人のおっかさんにコクンとうなずき、相変わらず、彼女のピンクのリュックをセッカンしている恐ろしい大人の男をチラリと見る。あの男が父親であろうとなかろうと、イライラする大人の男は、恐ろしいものだ。

背すじに寒いものを感じつつ、アイスを買うわたくし。ぞぞぞ。

私もイライラする大人の男は嫌いだ、撲滅すべきだと思う。でなければ、通りしなその男にセロトニンを塗ったフキヤを吹いて・・・カルシウム爆弾とか・・・どうしたって大きさだけで幼児は圧倒的に不利だ。嬢やおばさんが飛び道具を貸してあげるよ、と心の中でつぶやく。