ポツダム、夜のこと

ドイツのポツダムに行ったとき、私は生まれてはじめて男性に口説かれた。

ベルリンの中心部から30分、日本橋-吉祥寺くらいの郊外にある言わずと知れた古都で、第二次世界大戦の落とし前で有名な古城の町。ベルリンよりものどか。中心部に宿を取れずに流れてきている観光客もまあまあいるらしい。ベルリンが混んでいるときはおすすめ。

もう1ヶ月ドイツ・ドビンボーツアーをして、目ばかりギラギラとやせ細り、シャツにジーンズ、登山靴、巨大ザックを背負い、宿無し。とりあえず広場のカフェへ行ってみた。古い屋敷を改造した中庭のあるいいかんじのカフェ。どしんと座って、やれやれと思っていたら、突然目の前に男が座る。

にやけた男とよく言うけれど、それに煙たいような粗暴さが加わった危険なかんじのおじさん、言ってみればイタリアの俳優ヴィットリオ・メッツォジョルノ溝の中の月 [DVD]
にそっくり。目を三日月のようにして笑う、地獄のようにエロい。
「どこから来たの?」「1人?」「ベルリンには泊まれなかったの?」と次々に質問を浴びせ・・・にやにやしながら、だんだん彼は前傾姿勢になってくる。

「一杯おごろうか?」「いいです。」指を鳴らしてカフェの人に合図をすると、
「彼にビール、俺もね。」

彼???まあね、そのほうが安全かも。さあどうしようかと思っていたら・・・
「宿がないなら、俺の部屋にくる?一晩くらい泊めてあげるよ」「いいです、なんとかしますから。」「君みたいな若い人が、1人で知らない土地を旅行して、宿が決まらないなんて危ないじゃない?べらべらべら・・・」そのあなたが今ここにあるもっとも身近な危機。
「あの私26ですけど」「え?ああそうなの、中国人は年がわからなくて、そうか大人なのか。あんまり華奢だから、高校生かと思ったよ」「それに中国人じゃありません、日本人です。」
「今日本人って言った?あれ女の子なの?男じゃないのか!じゃあ、よい旅を!チャオ!」

語尾が違うのね、男と女で、日本人って単語は。
セクシーおやじは後ろ向きのまま手をひらひらさせて通りを去っていきました。

ビール、ごちそうさまでした。

後にも先にもセクシーなおじさんに全力で熱心にくどかれたのは、これだけ。

1983年に製作されて、90年代初めに日本でも遅ればせ公開されたジャン・ユーグ・アングラードのデビュー作「傷ついた男」を久々に見たので、この件を突然思い出した。似ているよなあ、主人公を篭絡する粗暴でセクシーなイタリア男と、私の思い出の彼って。ヨーロッパのそういう世界の男って、ああいうイメージなんだろうか。彼がポツダムでナンパをしていたとかいうことはないよなあ・・・その4年後に亡くなったと思ったけれど。ぼくの命を救ってくれなかった友へ
この映画はエルヴェ・ギヴェールが脚本を書いている。もう新作が書けるわけないんだけど、新作が出ないなあ最近・・・なんてぼけたことを思ってしまうのだ。本当の話

フランソワ・オゾンあたりが本腰を入れて、彼の作品を映画にしないかな。オゾンはオゾンで別の現実を生きていて、もう「僕を葬る」でそれは描いてしまったのかもしれないけど。
ぼくを葬る [DVD]

腐女子的な発言?でも現実にちゃんと口説かれたんだから、そうでもないか・・・。