音もなくカレーを食べる男

学生のころ、仲のよかったクラスメイトは、学食でいつもカレーを食べていた。210円だったけど、女のクセに食べ盛りのガキだった18歳の私には物足りないくらいのモリだったのに、彼は並モリ。とにかく毎木曜日、授業が終ると彼と学食へいき、カレーライスを食べる。木曜日の午前の授業で我々はチームなのだ。おおきなガッチリしたサムソンみたいな体で、ヒューイ・ルイスのような顔をしているのに、普通モリのカレーを食べるのが、なんだかかわいらしい。

大盛りのカレーを物もいわずに夢中で食べている私を前に、滔々と何かを語っていつつ、すいすいと彼のカレーはなくなっていく。ガツガツ食べている私よりも数段早く、きれいにお皿が空になる。喋っている口と、食べている口が違うんじゃないかと思うくらい。いくら普通モリと大盛りが違っても、妖しいほどに饒舌で、華麗な食べっぷり。

「お前は正真正銘の餓鬼だな。今度バイト料が入ったら、ものすごい大盛りのカレー屋に連れてってやるからな。」とか、意味不明のことを言われたり。でもその夏、約束を果さずに、彼は突如行方不明になってしまった。

今日、仕事でお世話になっている若者が、話しながら、いつのまにかカレーライスを平らげてしまったのを見て、ふとそのことを思い出した。いつの間に食べちゃったんだろうか?彼は食後の一服の煙が私方向に向かないように、手で軌道修正しながら、なにか熱心に喋っている。
いつの間にカレーがなくなったのか?

物を食べる姿っていうのは、人を観る手っ取り早い方法なんだろうなと、思う。
だからあまり、人前で物を食べない主義。