後期印象派の木

皇居の近く、千鳥が淵の遊歩道の途中に、気になる木がある。

普通の桜なんだろうけど、枝が片方にしか伸びていない。万遍なく日の当たるような環境なのに、いつも風にそよいでいるように、一方向だけに枝をなびかせている。遊歩道の通路側には枝がほとんどなくて、車道のほうに風もないのにそよいで、立っている。

幹はすんなりとした若木でほとんど直線。だから枝がなんだか劇的に不自然な方を向いているのが不思議に絵のよう。足元に咲き乱れる萩をはべらせて、狂った王子のような桜木。

紅葉を前にしてくすんだ緑の色合いは、油絵のよう。11月になると千鳥が淵のあたりは、とても落ち着いた哀しげな色合いに染まって、一年でも一番好きな風景になる。この道があるから一年で晩秋が一番好きなのだ。

今はできないけど・・・男性とふたりきりですごすとき、彼の胸に耳をつけて心臓の音を聞いているのが好き。気持ちが落ち着いてくる。そのときにその人が低い声で何か言うと、洞穴の中みたいに響いて面白い。男性に甘える姿がまったく想像できない・・・と人にいわれたけれど・・・確かに甘えるのとは違うかも。

長い時間、ぼんやりふたりですごすこと、が恋愛の風景だったりする。