元の生活

毎日山盛りの資料を読んで、図書館や本屋にでかけ、取材で人の話を聞いては、原稿に落とし込む毎日。コドモを送り出してから、コドモが帰ってくるまで一言も喋らず、ずっと何かを書いていることも珍しくない。静かで密度の高いそういう生活がキライじゃない。まさに手の中であれやこれや、言葉や構成をいじりながら、完成させていく作業。

ほんの2ヶ月前までは、そうやってほぼ一日中モクモクと働き、それなりの報酬もあって、地味にすぎていたんだけど、この夏に出来心でリサーチの仕事を受けてから、なんとなくおかしくなっている。本来の職能ではない電話でデータ収集なんて仕事を受けたことを、心から後悔しているんだけど、もう数百件も電話をして、毎日いろんな人と話すということが、私の中の何かを変えてしまったような気もする。

電話の向こうの人もだけど、雇われたカイシャに出向くことにしたせいで、カイシャの人とも話す。若い人たち、若い会社だから。いまどきのいろんな考えがあって、夢も希望も不安もあって、甘苦しい若さ!ライブで生きてるかんじがする。今だって私には私の問題があり、私のライブがあるけれど、通り過ぎてきた季節をなぞるようで、つい、彼らの様子に見入ってしまう。そんなに昔のことじゃない、でもそう思い知らされるのはなぜだろうか。間もなく雇用関係が消えて、もう「来なくていい」といわれると、きっとがっくりとさみしいんだろうなあ、すごく。そんな日も近いんだろうと思う。そういうもんなんだろうな。カイシャだもの。

若者が言う「この次の課題はですねえ・・・」そうだ次の課題。ひとつひとつ乗り越えながら、仕事をカタチにしていっている。チームで。本来ならつねに「次の課題」があり、またそれを力をあわせて乗り越えていくこと、甘美な世界なのだ。ここにいれば、いつでも「次の課題」がありつづけ、次のテーマが生まれ続けるんじゃないかと、そんなわけないんだろうか。
そしてそれがいずれ「なかなか大した仕事」として成立していく、得がたいチームみたいなかんじがするのに・・・。

でも一方で、人と人のさなかでもまれてガラになくお祭り状態になっている自分にあきれる気持ちもある。ただちにまた静かで人知れない元いた裏の世界へ帰るべきだと・・・。