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伯母の様子を見に行く。倒れたときは、ろれつがまわらなかったのに、もう堂々と歩き回っている。奇跡的に入れた都内有数のリハビリ病院だけに、スパルタだけど確実に回復している。かつてのハツラツとした伯母に戻っていて安心した。

開口一番「○○ちゃん、なんかお肌が荒れてない?」そうなの、大荒れ。心が顔に出るたちなものですから。「『あなたにも若いころがあったんでしょうね?』ってスタッフの子に言われたんだけど、失礼しちゃうわよね?入院するときもディオールの口紅一本しかもってこなかったんだけどね。」88歳白い肌に不思議に映えるディオールの紅。美人でちやほやされて育った伯母は、いまだにお嬢さんみたいな雰囲気がある。

「ほんとはね、何でもできるのよ。でも今度行くとこでお世話してもらいたいから、ヨボヨボなふりをしようかなって。私、すごい演技派なの。」
「おばさん!介護認定をたばかろうなんて、大胆なことを。」
「だって認定が『自立』になっちゃうと、背中を流してもらえないかもしれないじゃない?」「聞いたことありませんよ、老いたふりをする老人なんて」「あははは」

いろいろ紆余曲折の末彼女は、老人ホームへ入る。家に引き取れる親戚がいないから。日本では平均的な人生の初めと終わりは公共機関ですごすのだろうか。栄養管理の行き届いた考え抜かれた食事が定期的に出てくる世界。具体的に言えば「ご飯をもっとちょうだいというと、おかずが減るのよね」というバランスの世界。野生の人間界はもっと乱暴でアンバランスで、行き当たりばったりだが、ここは違う。次に彼女が行くホームも同様。

規則正しい、健康で快適な生活が一日も狂わずに進行する。

今日来たとき伯母は眠っていた。4人部屋のカーテンがフルオープンになっていたのが、意外だった。眠れるんだ?前に自分が入院したときは、なるべくカーテンはしめきっていたから。他の人がいる状況に24時間いるのが耐えられない、神経が磨り減ってしまう。病院ではどうすごすかが選べない。ずっとカーテンを締め切りにしていたいけれど、看護士さんに開けられてしまうし、隣の人と話さなくてはならない。弱っているのに、どうしてそんなエネルギーを使わせる?孤独は別誂えで買わないといけない、安全な孤独は贅沢品。

集団生活をしてみると、自分がどのくらいオープンな人間かがわかるなと思った。当然ながら徹底クローズ、1人になりたくてイライラ。伯母は案外オープンなんだ。