ハニーワーム

前にぶどう蟲を映画に撮った。

ハニーワームっていう奴、要するにでかいうじ蟲です。蛾の幼虫なんだけど、葡萄粒みたいな丸いさなぎで生きたまま売っていた。ぶどうにつく害虫らしいんだけどね。皮をむいて釣り餌にするんだけど、そうするとものすごい速さで動く、うじ蟲にしては驚異的なスピードで。

文字をさなぎでつくって、さなぎの一部を剥いておいて、文字が脱出した蟲の動きで散っていくというタイトルを撮影した。狙い通り、外に出た蟲は速い!あっという間に文字はばらけて野原に散ってしまったのだが、点が残った。あれれ?ご臨終?完全に蟲がいなくなる計画だったので、カメラを止めて、さなぎの様子を見てみる。ちゃんと白いおおきなうじ蟲が入っているし、つつくとモゾっと動くから生きてるんだけど、どうも体を半分露出しながらも、そこから出る気がないらしい。困った怠慢な俳優だ。

しょうがないので、半分はがしてしまって、上にかぶさっているだけにしてみる。ほとんど裸同然なのに、やっぱり移動する気がないらしい。うーん・・・あれだけ他の蟲は主体性にあふれていて(?)一目散に逃げ出したのに、お前は・・・なんでそんなに生きる気力がないのか?それはなぜなのか?なんか、このやる気のない蟲について、別の映画を撮ったほうがいいかもな、と思いつつ、課題が迫っていたので、しかたなく蟲をどけて最後のショットを撮る。

ちょっと不自然に最後の蟲はポッと消えてしまうことになる・・・結局そのタイトルはボツにしたんだけど。動かないのでどけられた蟲は、裸で野原に転がったまま、もぞもぞしていて、まるで逃げ出す気配がない。おまえ、とことんやる気ないんだなあ・・・と、フィルムが残っている分、延々とそれの映画を撮っていた。あのフィルムってどこ行ったかな?

逃げる=生きるみたいなシンプルな行動原理でさえも、それに乗らない奴っているんだよね。主体性がない生き物って、よくわからない。なんで生きてるんだろうな?って思う。生きてるっていうより、死ぬまでの時間潰しているみたいで。どこにも行き着かない、そんな奴に関わっているのは、時間の無駄だよなあ。最初は普通じゃなくて面白いかって思うけど、一緒にいると、だんだんこちらまでエネルギーがなくなってきて、空しくなってくる。無気力って伝染性なのだ。

動かないうじ虫が、いかに哲学的な被写体だとしても、早く忘れるべき!