アタシを捨てた男

あにいもうと [DVD]
京マチ子は今ならちょっとふくよかすぎるあごをしている。あの福々しいかんじが戦後すぐの日本では、きっとすごくセクシーだった。なまめかしく柔らかい女の肉・・・。

だから巨匠は彼女を「あだな女」として翻弄する。あらゆるタイプの男に襲わせ、殴らせ、縛り上げたりさえする。うーんエロい。

あにいもうと」という戦後の貧しさ・人の強さを描く成瀬巳喜男の作品。成瀬が描く市井の人というのは、今の人より味のある言葉遣い。ちょっと前の日本語の響き、情緒があっていい。それにやっぱり戦後映画のよさは、創造の情熱と、復興しようという社会のうねりが一体になって上昇していくエネルギーだ。観てると「うおーっ」と叫びたくなるような原初的な力がわいてくる。まだアジアだった頃の日本とでもいうのか。

京マチ子演じる女は都会の夜の女として、郷里のあばら家のあけはなした居間で、さばさばと帯をゆるめて言うわけさ。
「あの人はここで(胸)で想っているだけなら恋しい男だけど、もし本当に会ったりしたら、もう今のアタシには物足りないのさ。」彼女が子までなして、本当に愛した(多分)男のこと。赤ん坊は流産してしまったし、その男(船越英二)は大した美男だけれど、惚れた女ひとり受け止められないヘナチョコで。そんな男にはまったことが、女の転落の始まり?それとももっと前から?

「あんたは大変な女におなりだね・・・。」煙草をふかす娘をみて、母親は悲しそうに言う。そしてアダな姐さんは、パーマをあてた髪に和服を着て、野中の道を日傘をゆらゆらさせながら、母親を残して夜の巷に戻っていく。

だけどホントそうこなくちゃ、自分を捨てた男になんて会っても、もの物足りないようでなきゃいけない。じゃなけりゃ、女がすたるというものさ。
ねえマチ子姐さん?