レイコという女

5歳くらいまで、オトナになったら名前を変えられると思っていた。自分も自分の名前もキライだったから、「レイコ」にしようって思っていた。

休日、誰もいない家の階段にできた陽だまりにすわって、いつかレイコになる日をぼんやり空想する。レイコは髪がつやつやと長くて、ビビアン・リーみたいな二重のキレイな目をしている。体操が得意で、宙返りができる。そしていくつも外国語を操つるスパイなのだ。もちろん銃だって使えるし、実は人にいえない秘密がある。

でも、現実はオトナになっても名前は子供のときのままだし、会って別れて3秒で人に忘れられてしまうほど地味だし、宙返りもできない。ささいな言葉で死ぬほど傷ついてしまう。私はレイコになれず、妄想を出てリアルな世界に生きることが苦手だ。

別の言い方をすれば、まだ「レイコ」は生きていて、トュームレイダーのようにタフで、セクシーな唇をしている、アンジーみたいに。

そして誰も愛さないし、絶対に傷ついたりしない。

自由なのだから、目を瞑った私が誰になろうと。