東京タワーで大喧嘩

武蔵野の流行り町にあるおしゃれな文房具店。店番の女子はふたりとも20前後で、一昔前のオリーブのモデルさんのように洒落ている。美人といっても言い過ぎではないふたりは、会計の合間におしゃべりをしている。

相当な大声なので、お客には丸聞こえ。
「東京タワーで彼と大喧嘩したの。つまんないこと、なんだけど、気づいたら険悪になってて、せっかく展望台まで登ったのにね、眺望はそっちのけで、並んで座って口論。もういやんなっちゃったよ。」
「どうして?」「あのね、ほんとどうでもいいことなの。でもね、電車で出かける間中、本を読んでいるんだよ。せっかくのデートなのに、あたしより本がいいの?って思うじゃない?」「そうだよね。」「だからむくれたら、ギャク切れされた。そんなこと言われたくない!って言うんだよ。」「わざわざ東京タワーまで登ったのにね。」「そうでしょ?時間つくってさ、行ったのに。私といるのが退屈なら、家で本読んでれば!とかって思うよね?」
「なんかさあ、もう無理っておもっているの。」「そうだね、どうなんだろう。」ケンカした子の話を、あきらかにもう1人は身を入れて聞いていない。そういう態度が最近の思いやりナノか、聞いていた子がバイトで、もうひとりは邪魔をしている非番なのかも。仕事中に話しかけるなよ的な?そうじゃないとすれば、その「彼氏」は共通の知り合いらしいから、店番ちゃんは実はその男とデキテいて「◎子うざいよね、いちいちごちゃごちゃ言うなよだよね〜バカじゃない?」とかって陰口でもりあがっていたりして。何もしらない非番ちゃんは、彼がどうして彼女と「当たり前に」向き合ってくれないのか!ってなやんでいる。

おばさんは思うんだけど、当たり前に向き合ってくれないって思うなら、愛情生活に不足を感じるなら、それは正しい相手ではないんじゃないだろうか。好きでも、合わないこともあるからさ。相手はあなたのことをそんなに好きじゃないのかもしれないし、120%あなたを愛していても「当たり前の愛情表現」のレベルがあなたの望むものと違いすぎるのかもしれない。恋愛くらい感情で解釈していい世界はないのだから、理屈で理解しようとしなくていいんじゃないかと。シンプルに幸福、それの純度を追求するために、人は恋をするのだと思うのは、ロマンチックすぎるのでしょうか?でもね、そういうラブメーターをもっていること、大事だと思うの。