空に蝶をはなすように

蝶を空に放つような繊細かつ潔い気持ちで人と別れられるのが、理想だ。

でも今の私はちょっと粘着質で、我利に足元をすくわれて、人の気持ちをないがしろにしている。誰かのサインを見逃さず傷つけずに物を言ったり、言わないでおいたり、そういう心の余裕がどうもない。もう取り返しがつかないことも多々あるだろう。信頼関係はささいなことで崩れ去ってしまう。妥当な対応をしなくても人がそばにいるほどには、人間としての魅力もないのだ。

どこかの野原で出会った蝶を手の中に捕まえて、それをまた放つとき、もう二度と会えないだろうと覚悟をする。ところが野原から森を抜けて向こう側に出た時、同じ蝶が森を抜けてついてくる奇跡もおこりうる。でも、それだって手の中の蝶ときれいに別れたから、驚きが待っていたわけで。吉兆はそういう心のキレみたいなものについてくるのではないかと、このごろ思う。

だから人の心も、仮に手の中に入ったとしても、そんなどんなにか魅惑的な偶然の虜にならないで、すっと空に放してしまう強さを忘れてはだめだ。わずかな美点、そういう底力が私の取り柄だから。