井伏鱒二の言うには

有名なのかもしれない。太宰が無理心中だったという話。桜上水に上がったときに首に絞めたような跡があったっていう。その前に一緒に暮らしていた、その心中した女性に軟禁されていて・・・とかいうSMのようなエピソードだ。グットバイの不道徳極まりないけれど能天気な、薄汚れた過去だって脱ぎ捨ててしまえるんじゃない?楽観主義者の天国みたいな小説を書きかけて、自殺してしまった理屈がわからない、と思っていたので。

戦前、若き日の繊細可憐な石井桃子さん(敬称を付けずにはいられない)に太宰が入れあげていた・・・という話も。あの才媛は100まで生きたんだから、そういうことなんだろう。情死事件のことを聞いて「私なら死なせなかったのに」といったとかいわないとか。
かわいらしい才気煥発な彼女の話に、細長い指をもてあそびながら感心したように聞きいる太宰というのも、なかなか風景だ。そんな場面があったのかなかったのか、人生のうちのほんの3時間でも、庭に白樺が植わった絵本のような家でベルモットをのみながら。

キーンとした主張はなかったり、調子が外れている部分があるかもしれないけど、強い懐の深い偉い女性よりは、石井さんみたいなダートフリーな「天然」っぽい人のほうが、ああいうゴチャゴチャした男にはあっていたのかもな。子供は子供同志、なんとかやっていこうみたいなね。不遜ですか、そういうことは。